認知症
様々な原因で脳の細胞が死んでしまったり、機能が低下したりして生活する上での支障が出ている状態です。物忘れには健康な物忘れと、病的な物忘れがあります。例えば旅行に行ったことは覚えているけれどヒントがないと地名が思い出せないとか、単に人の名前が思い出せない、といった症状は誰にでもある物忘れです。一方で、旅行に行ったことさえ覚えていない、昨日人と会ったことが記憶にない、ご飯を食べたことを忘れている、など出来事全体をすっぽりと忘れてしまうような物忘れは、病的な物忘れの可能性が高くなります。
病気の種類と症状の特徴
認知症を引き起こす病気は沢山ありますが、その中でも頻度の高い4つの病気が全体の9割程度を占めています。(出典:平成23~24年度「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」)
アルツハイマー型認知症
全体の60%以上を占めます。男性よりも女性に多く、年単位の時間をかけてゆっくりと物忘れや理解判断力の低下が進行します。家族などの身近な人に対して、「財布を盗まれた」などと被害的な思い込み(被害妄想・ものとられ妄想)をしたり、暴言を吐いたり、徘徊をして迷子になったりするため、介護者の負担は大きくなります。
脳血管性認知症
全体の20%程度を占めます。女性よりも男性が多いようです。脳梗塞や脳出血などに引き続いて起こります。手足の麻痺などの神経症状を伴うこともありますが、梗塞が小さい場合は目立たないこともあります。認知症の症状にむらがあり、できることとできないことの差が激しかったり、良くなったり悪くなったり症状が変化することがあります。感情のコントロールが難しくなり、すぐに怒ったり泣いたりします。ゆっくりと徐々に進行するというよりは、急にガクッと能力が落ちるような進行のしかたをします。
レビー小体型認知症
全体の5%程度を占めます。ほかの認知症に比べて早い年齢で発症することがあります。認知機能障害は初期から中期にかけては目立たない場合が多く、調子が良い日と悪い日があるため、気が付かない場合があります。実際には見えないはずのものが見える幻視、壁の染みやカーテンのしわなどが別の何かに見えてしまう錯視、顔の表情が乏しくなったり、歩き方が小刻みになったりするパーキンソン症状、夜中に大声を出したり、寝ぼけて変なことをしてしまうレム睡眠行動障害、うつ病のような気持ちの落ち込み、薬に対する過敏性など、様々な症状が出ます。
前頭側頭型認知症
全体の1%程度を占めます。初期には物忘れは目立たず、協調性が乏しくなったり、衝動的な行動をとるようになったり、いつも同じような行動を繰り返したりするようになり、性格が変わってしまったように見えます。食の好みが変わって同じものを食べ続けたりすることもあります。自発性が低下して家事をしなくなったり、知っているはずの言葉の意味が分からなくなったり、文字が読めなくなったりします。集中力がなくなり、話している最中に急に立ち去ってしまうこともあります。周囲から影響を受けやすい状態になり、相手の動作や言葉をまねる、同じ言葉を繰り返すといった奇異な言動も見られます。
治療
今のところ上に述べた4つの認知症を根治するお薬はまだありません。進行を緩やかにしたり、問題となる行動を抑えるためのお薬を使用したりしながら、患者さんがその人らしく少しでも幸せに過ごすことができる環境を整えていくことが治療になります。進行してしまった認知機能を戻すことはできないため、早めの治療が望まれます。
認知症に見える状態であっても、実際にはうつ病であったり、アルコール依存症であったり、正常圧水頭症であったりと、治療可能な病気が隠れている場合もあります。
介護をしている方へ
認知症の方を支えるというのは並大抵のことではありません。少しでも相手のために、という気持ちで自分を犠牲にし続けている方も多いのではないでしょうか。それは大変尊敬すべきことである一方で、危険をはらんでいる部分でもあります。介護をする方が疲れ切ってしまっては、患者さんのお世話はできなくなります。みな人間ですから、気持ちに余裕がなくなったら、優しい態度で接することはできなくなります。その時、一番困るのは患者さんかもしれません。このままでは自分が危ないなと感じたとき、自分のことを優先することが悪いことだと思わないでください。一人で抱える必要はありません。利用できるサービスを利用して、継続可能なお互いの幸せを目指しましょう。